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薮原検校

2007年6月7日木曜日 シアタードラマシティ

作:井上ひさし

演出:蜷川幸雄

音楽:宇崎竜童

ギター:赤崎郁洋

古田新太:杉の市、後の二代目藪原検校

田中裕子:お市

壤晴彦:語り手役の盲太夫

段田安則:魚売りの七兵衛 / 塙保己市 / 首斬役人 ほか

梅沢昌代:七兵衛の女房お志保 / 日本橋の橋番

六平直政:仙台座頭・熊の市 / 佐久間検校 / 凶状持ちの倉吉 ほか

山本龍二:塩釜座頭・琴の市 / 初代藪原検校 ほか

松田洋治:佐久間検校の結解(けっけ) / 定廻同心・浅野某 ほか

神保共子:相対死の方われ女 / 強請られる寡婦 ほか

景山仁美:魚河岸の売り子 / 強請られる寡婦の娘 ほか

またもや蜷川芝居を見に行ってしまいました。

いやもう、このキャスト、見に行かないわけにはいかんでしょう。

あらすじは

時は今から二百年ほど遡る江戸中期の享保、塩釜の地。小悪党の魚売り七兵衛は、醜女だが無類に気立てのよいお志保を嫁にもらい一旦は改心するが、女房のお産の金欲しさに行きずりの座頭を殺して金を奪う。が、生まれてきた男の子は盲だった。「座頭をひとり減らしてまたひとり殖やしただけだ」とめぐる因果の恐ろしさに、七兵衛は自害する。生まれた子は、塩釜座頭・琴の市に預けられ杉の市という名前をもらう。手癖が悪く手が早い杉の市は、十三で女を知り、師匠の女房のお市にまで手をつける始末。ある日、難癖をつけて金を巻き上げようとする佐久間検校と言い争ううち、検校の結解(けっけ=目明きの秘書のこと)を刺してしまう。別れを告げに寄った母の家で、誤って母を刺し、駆け落ちしようとお市と共謀して師匠琴の市を殺すが、お市は瀕死の琴の市の返り討ちにあう。

一人になった杉の市は師匠から盗んだ金を携えて江戸に向かい、門下生になるために学者・塙保己市の元を訪れる。晴眼者以上に品性を磨くことを目指す塙保己市が、万事が金と考える杉の市を弟子にするわけもない。

その後、藪原検校に弟子入りし、貸し金の取立てで見る間に頭角をあらわす杉の市。そして二度目の主殺しをし、念願だった二代目藪原検校の襲名披露の日、彼の前に立ちふさがる影が………。

あらすじ読んでも多分ネタバレにならないくらいに、これは舞台を見ないとわからないお芝居だと思いました。

あらすじの中に出てくる「座頭」とか「検校」という言葉。

江戸時代には盲人たちの社会において「当道座」という組織がありました。

検校・別当・勾当・座頭の四つの官位に分かれていて、十六階七十三刻に細分される階級制度があったのです。

按摩や針、音曲(物語を歌って聞かせる)などをやってお金をもらい生計を立ててるのですが、そこは階級制度。下っ端の上がりを上の人がハネて私腹を肥やす…という暮らしぶり。

しかもその階級はお金で買えるのです。お金をもっていればもっているほど、いい暮らしができるという、なんだか理不尽な世界。

そんな世界でのお話です。

なんつーか、こう納得いかない扱いに怒っている人の憤りを見せられたようなお芝居でした。

井上ひさしさんはこれを30代で書いたそうで、それがスゴイ。

ガンガンに差別されて、虐げられ、それでも生きていくためにガムシャラな人たちの叫びっつーんでしょうか。

何が良くて何が悪かったのか、勧善懲悪じゃない感じがするところが深くてよかった。

蜷川さんはその井上さんのパワーに負けじと、そして、そんな井上さんの世界を壊さないように、って感じの演出をされてたと思います。

そして、その演出を支えて素晴らしいものにしたのは今回の役者のみなさん。

一人何役もこなしながら、物語を進めていく素晴らしさ。

そして、それを講談師風に語る盲大夫の壤晴彦さん。

ずっと出ずっぱり、ずっと語りっぱなし。しかも語ってることは当時のややこしい盲社会の説明とか、当時の情勢とか、あと、ト書きとか。

ギターの演奏1本に乗せて語るその語りが素晴らしかったです。

ギターも時には琵琶のように、時には三味線のように、といろんな音に変化して、よかった。

ひっどい話なんですけど、時にユーモラスな感じを交えながら、希代の大悪党の始まりから終わりまでのお話、堪能しました。

ま、テーマがテーマだし、残酷でエロで苦手な人は苦手だったのかもしれないのですが、あの残酷さとエロがないと語れないお話だったと思います。

古田さんは悪党の杉の市役。

でもこの杉の市、憎めない悪党なのです。やってることは殺す奪う犯すと極悪なんですけど、なんでか憎めない。底辺の一生懸命さっていうヤツでしょうか。

金があればいい暮らしができる。金があれば偉くなれる。ただそれだけの男なのです。

その杉の市が手をだした師匠の女房のお市

善良な師匠・琴の市との暮らしより、悪い杉の市との暮らしに憧れる。杉の市の言われるままに旦那を殺すものの、返り討ちにあい、杉の市に置いていかれるのですが、どっこい生きてて、江戸まで追ってくる。

そのお市のせいで、杉の市は足下をすくわれてしまいます。

お話の途中にこの2人の濡れ場があるんですけど、これがエロい。相変わらず、エロい(笑)

そんなエロ場面と、差別用語として多分テレビでは放送できないような言葉がビシバシと出てきた舞台でした。

杉の市は希代の悪党なのですが、全部後手後手というか、母殺しもうっかり偶然、師匠殺しはそそのかしたとはいえお市がやってしまいます。

ひとり殺せばもう二人も三人も同じだ…とばかりにあとは金を奪うために人殺しを重ねてしまう杉の市。

そこには金を持ってるだけで偉そうにして金のないものを虐げる人間への怒りがあったような気がします。

で、金でどんどんのし上がっていくのですが、もうすぐ頂点の検校に!っていう手前で、保己市という男に出会います。

これが段田さん。声がステキで佇まいがスラっとしてて、とてもステキ。

保己市は晴眼者以上に品性を磨き、学を高めることで盲人を晴眼者に認めさせたいと思っている人物。

杉の市とは正反対の人なのですが、お互いに「盲人を晴眼者に認めさせたい」ただ見えるか見えないかだけの違いなのに何故こんなにも扱いが違うのか…というふうに思っていたようにも思えました。

結構、目指すところは同じ。手段は全然違うけど。

だから2人は気が合うのですが、最期は保己市の提案で杉の市は酷い殺されかたをしてしまいます。

死んだと思っていたお市が現れたのは、杉の市が師匠の薮原検校を暗殺しようという企てを凶状持ちの倉吉に話してるとき。

企てを聞かれた杉の市はお市を川へ突き落としてしまいます。

自分の過去を知るものがいなくなり、師匠も無事殺害し、ついでに倉吉も殺害し、あとは検校になるだけの杉の市の前に、またもやお市がっ。

どこまでもゾンビのように追ってくるお市

そのお市を殺した場面を町人に目撃され、杉の市は失脚。

囚われてしまいます。

そんな矢先、保己市は将軍の家臣に「どうも最近、民の暮らしが乱れている。どうすれば律することができるのか?」という相談を受けます。

そこでなんと杉の市を公開で処刑することによって、民の気を引き締めればどうでしょうか、と保己市が提案するのです。

処刑の仕方はもっとも残忍な三段切りという切り方でやればいいというのです。

三段切りとは縛ってつり下げた罪人の腰を切り下半身を落とし、バランスを崩してひっくり返って頭が下になったところで今度は首を刎ねるというもの。

知己であったであろう杉の市の処刑をそんな残忍なやり方でやればいいという保己市に家臣は眉をひそめます。

いくら賢く振る舞ったところで、盲は盲だと蔑みます。

どこかの感想で保己市は非道いって書いてた人がいるんですが、ワタシはそうは思えませんでした。

掴まって処刑されるなら、どうせなら、派手な花道というか効果的な死なせ方をさせたかったんじゃなかろうかと思いました。

残忍であればあるほど、きっと民は心を震わせ、大人しくなる。

それは晴眼者が「見える」からこその恐怖で、心からの戒めじゃなく「見てしまった恐怖」からの戒めである…それが一番大人しくなる方法だ。と提案してるように思えたのです。

逆に晴眼者のことを蔑んでるっていうんですかね。なんかそんな感じ。

検校になる前の杉の市と保己市が話す場面で杉の市は「偉くなったらもっと盲人が稼げるようなことをしたい」と保己市に言います。

その提案はおもしろいものだったのですが、保己市はそれは無理だと言います。そして、

「晴眼者は盲人があらゆる意味でよくなって行くことを望まないんですね。盲が哀れで、愚かで、汚らしいものであってほしいらしい」

そう、杉の市に言います。

お互いに金や徳を積んでがんばっても、結局はそこに行き着くんだよ…、暗黙の了解ってヤツでお互いになんとなくそれがわかってた風な場面でした。

どんなにがんばっても晴眼者>盲人という図式は崩せないのかもしれないという憤りが2人の中にあったような気がしました。

うわー、すっごい長い。

まだキャストの素晴らしさについて全然語ってないんですけど…_/乙(、ン、)_

ホントによかったのです。

六平さんも八面六臂な活躍でいろんな役をされてました。

他のみなさんもそうです。

今回は本当に演出が演者に支えられてたような気がしました。

カーテンコールで古田さんが投げキッスをしてました。

このおちゃめさんなところとドスの聞いた声のところと、そのギャップがたまらないです。

ああ、芝居の古田さんは大好き。

途中、早物語という物語を歌に乗せて語る場面があるんですが、その時間がなんと10分!

見事に乗り切る古田さん。拍手喝采でした。

はー、やっぱり好きだ。

なんだかんだで、蜷川舞台はハズレなしです。