ユニコーンやら電気グルーヴやら筋肉少女帯やらSMAPやらお芝居やら

凪待ちを観た!

凪待ちを観ました。前評判が高く「見たことのない香取慎吾」と言われていたので、どうなんだろうかと思いつつ、なるべくフラットな気持ちでみました。

 

話が進むにつれて郁男はどんどん庇護欲をかきたてられるクズになっていきます。だけど、 どこか一線は保ってるクズだから亜弓さんも美波ちゃんも懐いてくれてたのかも。

あんだけ怒りに任せて暴れるのに口論はしても手は上げません。美波ちゃんに口出ししないのも、めんどくさいの半分、言えた義理じゃないの半分。根底にはいくつであれ一人の人間だからってところもあったんじゃないかなと。

ナベさんの一件で最大級に荒れる郁男。郁男の一番近いところにいたのはナベさんなのかもしれません。やさしいダメ男同士、解りあってたのかも。なんでナベさんばっかり!なんで俺ばっかり!ノミ屋があるから!こんなものがあるから!自分に向けてた怒りを外に向けたのがあのシーンのような気がします。

ギャンブル狂な場面は負けてのめり込む郁男より、勝って荒ぶる郁男のほうがこわかった。そこに狂気が見えました。「船の金返せよ!」てアンタが自分で突っ込んだんやん!と思わず突っ込みました。

亜弓さんとの思い出のお金にも手をつけるし、勝美さんが自分の生きがいを売った金にも手をつける。そんなクズなのに何故か助けたくなる。ちゃんと印刷工として手に職持ってるし、氷屋だってちゃんと仕事覚えてるし、ギャンブルさえなけりゃやさしい男なんですよね。誰もがどこかにやさしさを持っていて「いいところもあるから」って助けてくれるんだけど、そのやさしさに溺れ続けるからダメ人間になるんだなぁ。 

 

慎吾の身体の厚みとデカさが生かされた映画でした。亜弓さんと寝てるときの顔のいかつさ。分厚い身体に纏わりつくようなよれたTシャツやシャツ。黙々と働く姿。そこに色気をみました。過去作品でなら、黒部の太陽の親方がそういう色気があったなぁ。両さんにもあった。

所在無げな部分と怒りややるせなさに爆発したときの暴れっぷりも素晴らしかったです。そういう慎吾を撮ってくれた白石監督に感謝です。負の感情を爆発させる役は見たことのないなかったので、あの爆発したときの迫力とパワーと怖さが見れてうれしかった。

常に背を丸くして隠れて暮らしていた座頭市を思い出して、慎吾のそんな部分を見出した阪本監督すごい!とも思いました。

だから、ワタシには見たことのない慎吾ではなかったです。

組!の勝っちゃんや黒部の太陽の親方、両さん座頭市THE LASTの市、そんな役たちを混ぜあわせてクズにしたら、郁男になるんじゃないかと。
基本、演じることに関しての姿勢が変わってない慎吾がめっちゃ褒められていてうれしかったです。
何様なんだよ!どこから目線だよ!って言われそうですけど、ずっと歯がゆく思っていたことなので。

この作品を機会にもっといろんなお仕事が広がるといいなぁ。見せたことのない慎吾を見せてもらえるといいなぁと思いました。

 

震災後の東北。200万円溶かした郁男が言った「福島に1ヶ月除染に行くんです」という台詞。それがそういう仕事になってること、風光明媚なところが堤防で囲われていくこと、生き残った人間が抱える「何故自分のほうが生き残ってしまったのか?」という気持ち。いろんなものが混ざり合った映画でした。

台詞や風景の端々に現れる震災の爪痕にヒリっとさせられつつ、新しい海のごとく、新しい生活が始まるようにと祈らずにはいられませんでした。

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ノミ屋で暴れる郁男の木刀の太刀筋がビシっと決まってたので、おお!っと思いました。暴れるシーンでの潔さ。倒れたり突っ込んで行く場面でためらいがない。

大男が「うわぁぁーん」て泣く可愛さ。倅じゃなくて孫だなぁと。美波ちゃんに「郁男はホントにクズなんだから!」とか怒られる未来が頭に浮かびました。

彼らの生活がどう続いていくのか分からないけど、生きていてよかったと思える日々になりますように。