ユニコーンやら電気グルーヴやら筋肉少女帯やらSMAPやらお芝居やら

ヴェニスの商人。

2007年10月4日 兵庫県立芸術文化センター

作:ウィリアム・シェイクスピア

演出:グレゴリー・ドーラン

翻訳:河合祥一郎

美術:マイケル・ヴェイル

シャイロック  市村正親

アントーニオ  西岡徳馬

バサーニオ   藤原竜也

ポーシャ    寺島しのぶ

ネリッサ(ポーシャの侍女) 佐藤仁美

ジェシカ(シャイロックの娘) 京野ことみ

実はいままで蜷川演出じゃない舞台に立つ竜っちゃんを観たことがありませんでした。

なので、蜷川演出が多いシェークスピアのお話で蜷川演出じゃない竜っちゃんはどんな感じなのか?というミーハーな心で観に行ってしまいました。

蜷川演出じゃないシェークスピアを見るのも初めてだったし。

で、結果は…すっごくおもしろかったです。

ヴェニスの商人って、金払えなかったらお前の体の肉で払えとかっていう極悪強欲商人のお話かとおもったらば全然違いまいした。

なんとなく薮原検校に通じる「差別され虐げられた人の理不尽な怒り」を感じるお話でした。

貿易都市として栄えた16世紀末のヴェニス

アントーニオは貿易で財をなす裕福な紳士。

ある日、散財で破産した彼の年下の親友バサーニオが借金の申し込みにやってきます。

ベルモントに住むポーシャという令嬢が莫大な遺産を相続した。

そのウワサを聞きつけ各地からいろんな男が彼女に求婚しにいっている。

自分も彼女にプロポーズして彼女ごと、その遺産をゲットしたいと思っている。

ついては彼女にプロポーズできるだけの容姿を整えて彼女の元に行きたい。

だから、お金を貸してくれ。

と。

アントーニオは貿易で稼いでるために、全財産が今、商船上にあり、手元に現金がありません。

3ヶ月後には船が戻り、現金が手に入るので、自分が保証人となり、ユダヤ人の高利貸のシャイロックからお金を工面することにしました。

そんなアントーニオにシャイロックが出した条件は「3ヶ月の期限までに借金が返済できなかったときは、お前の肉1ポンドをもらう」というもの。

もちろん、アントーニオは承諾します。3ヶ月後には自分の船が帰ってくる。返済できないわけはないと。

金を手にしたバサーニオはベルモントに向かい、ポーシャの父が残した結婚の条件をクリア。

ポーシャと結ばれます。ポーシャと財産を手に入れたバサーニオ。

しかし、アントーニオの商船が浅瀬に座礁。アントーニオは一瞬にして富を失った事が判明。

借金返済どころか、無一文、窮地に陥ります。

シャイロックは約束通り肉1ポンドをよこせと要求し、その争いは法定の場に持ち込まれます。

ポーシャからこれでお友達を救いなさいと持たされた金をもって駆けつけるバサーニオ。

金じゃない、最初に書いた証文どおり、こいつの肉1ポンドが欲しいだけだと言い張るシャイロック

証文にサインをしたんだから、もう仕方ない…と諦めかけるアントーニオ。

裁判の結果は高名な博士の判断にゆだねられることになり…。

というのがあらすじ。

舞台になったヴェニスは当時、キリスト教が優勢でユダヤ人は迫害されています。

迫害されながら、金のないキリスト教徒に金を貸し、その利息で儲けるユダヤ人。

それが、シャイロック

アントーニオはヴェニスでは名士で、ことあるごとにシャイロックと衝突していた人物。

シャイロックの高利はひどすぎると、利息を下げさせたりなんだりと、普段からシャイロックと衝突していた人物です。

ユダヤ人はただユダヤというだけで蔑まれ、ツバを吐きかけられ、差別を受けてきました。

今回の肉1ポンドもその積もり積もった怒りが爆発してのこと。

あげく、シャイロックの娘のジェシカがキリスト教徒のロレンゾと駆け落ちしてしまい、シャイロックの心はさらにキリスト教徒憎しの方向へ。

いやもう…最後のほうの裁判では、シャイロックが可哀想で可哀想で。

遠方から来た偉い博士っていうのが、実は才女であるポーシャの変装で、正論とへ理屈でシャイロックをやりこめてしまうんです。

結局、シャイロックは肉1ポンド切り取る事もできず、それどころか法廷で人を殺そうとした罰としてキリスト教への改宗を命じられたりして散々。

駆け落ちしたジェシカに財産を譲る誓約書まで書かされます。

も、どんだけ。

いろんな差別に満ちあふれた舞台でした。

ユダヤ人に対する差別。

アントーニオは実はバサーニオのことが好きなのですが、命を賭けたのにそれは成就せず、バサーニオはポーシャと幸せになってしまうという悲しさ。

ポーシャが婿選びをするとき、色の黒いモロッコの王子や年を取ったよぼよぼで腰が曲がったアラゴンの王子を選ばず、白人のバサーニオを選ぶところ。

シャイロックの召使いだったせむし男のロレンツォに対する周りの目とか扱い。

幸せになったポーシャとバサーニオなんですが、実はモロッコの王子とアラゴンの王子はバサーニオの変装だったんですね。

ポーシャの父がポーシャに課した婿選びの条件っていうのが、金の箱と銀の箱と鉛の箱の3つの箱のどれかに入ってるポーシャの絵を探し当てること。

ズルして変装して先に探りを入れて、最後に自分自身が正解を引き当てるっていう作戦だったんです。

シャイロックとアントーニオの裁判だって、元はと言えば、バサーニオが散財で破産したクセにアントーニオの恋心を知ってか知らずか利用して、借金をおねだりした結果のこと。

あれ?もしかしてバサーニオの一人勝ち?

哀れに去ってく人と浮かれてる人。

明暗分かれて舞台は終わります。

なんつーかなあ、釈然としない終わりというか。

それが世の中よねってっつー終わり方というか。

イロイロあったわりには起伏というかメリハリがなく、たらーーーっと芝居が続くので、こっちもたらーーーっとしてきました。

劇的な話かといえば、そうではない話なので仕方なしなんですけど、なんだかたらーーーっと。

途中のみどころはニセ王子に扮した竜っちゃんの大活躍でしょうか。

オーバーでコミカルな演技は大笑いでした。あっぱれ。

ロッコの王子では黒塗りでヘンな動きだし、アラゴンの王子ではヘンなじーさんで怪しい動きだし。

でも、竜っちゃん、バサーニオになると、がんばって低い声を出そうとするためなのか、なんか仰々しい感じになってしまって残念。早口セリフとか聞き取りづらくなってしまって。

それでも、あの悪意のない無邪気さは素晴しかった。アントーニオじゃなくても助けてあげたくなっちゃいます(笑)

意外に好印象だったのは、寺島しのぶさんでした。

ワタクシ、寺島さんっていうと、結婚でうきうき莫迦っぷるな寺島さんしか知らなかったので、あんなに声がよくとおる方だとは思わなかったのです。セリフがとっても聞き取りやすかったです。

ペラペラと早口でも全然大丈夫でした。気が強くて賢くて、とっても可愛らしいポーシャでした。

シャイロックな市村さんはさすがに市村さん。

笑わせどころは笑わせて、だけど、最後のほうの追いつめられるシャイロックは哀れで可哀想でホロリとしました。なんでそこまで踏んだり蹴ったりなのか…っていうくらいに。

アントーニオが幸せそうなバサーニオとポーシャを見て去っていくシーンにはキューンっときました。

結局、アントーニオの思いは成就しないのね…、それはバサーニオにとっては「友情」なのねっていう。つか、キリスト教徒だから禁断の恋なのね。アントーニオがカミングアウトすることは決してないのね…。うう。

あんな親!っていって、ユダヤ娘であることをイヤがり、とっととキリスト教に改宗しちゃった、ジェシカも、最後に博士に扮したポーシャが善かれととりつけたシャイロックが財産を譲ると書いた手紙を受け取ったときになんとも言えない悲しい顔をします。

ポーシャは善かれと思って「いい知らせよ」って渡すんですが、素直にいい知らせとは受け取れない感じ。あんな父親でも自分のことは大切にしてくれてるってわかって、ホントになんともいえない悲しい顔になるのです。

ホントにバサーニオの一人勝ち(笑)

ヴェニスの商人ってのは悲喜劇のようです。

よく知らなかったんですが。

他の人の演出脚本を見ればまた印象が変わる話なのかしら。

とにかく今回はイギリスの人で、あげく、ゲイであると公言されてる人の演出で、これでもかっつーくらいにマイノリティは虐められる構図でした。

報われない組は全部マイノリティ。

はっきりしてました。

ホントにたらーーーっと時は流れていってしまうので、途中ちょっとくじけそうになったところもあったんですが、でも、おもしろかったです。←すっごいセリフがくどかったとことかあって、そこでちょっとくじけそうに…

こんな話だったんかい!とわかったし。

他の人の解釈も見てみたくなりました。